2020年に亡くなった劇作家・評論家の山崎正和さんの追悼シンポジウム「山崎正和とは『何』だったのか?」が8月に東京都内であった。「世阿弥(ぜあみ)」などの戯曲や鋭い文明評論で知られ、サントリー文化財団の設立など芸術文化の振興にも尽力した山崎さんの功績を、ゆかりの人たちが次々と振り返った。
コロナ禍の20年に亡くなり、追悼の会は5年の歳月を経て実現した。主催した同財団の鳥井信吾理事長(サントリーホールディングス代表取締役副会長)は山崎さんの活動の根底には「日本を何とかしたいという固い決意、信念があった」と語った。
評論家の三浦雅士さんは山崎さんの主著「社交する人間」を手がかりに、人間の本質は感情にあり「社交とは人間の感情をどう育てるか」だと指摘。近年の政治の混迷や脳神経科学の発達にも心身の密接な影響関係が見てとれるとした上で、山崎さんの評論は「過去形ではなく未来に踏み込んでいた。山崎正和は生きている」と説いた。
哲学者の鷲田清一さんは、山崎さんの著書「演技する精神」を挙げて「人が人として生まれる不安が根本にある。理知の人(である山崎さん)が、人間がどれだけ感情的な生き物かという逆説を考えた」と評した。
政治学者の牧原出さんによると、独特の「劇的感覚、秩序への感覚」をもつ山崎さんにとって、政治は強い指導者が動かすものではなく、「まとめ役」や「世話役」の柔軟さが理想だった。
批評家の福嶋亮大さんは、山崎さんの出発点は美学であり「背筋のよい思想だった」と指摘し、「緩やかな消費社会の移ろい、可能性としての日本近代をプラスにとらえた」と高く評価した。
山崎さんを巡っては、今年、蔵書や資料をデジタル化した「山崎正和アーカイブ」(https://archive.yamazaki-masakazu.jp/)もネットで公開された。(大内悟史)=朝日新聞2025年10月1日掲載