体験談(約 22 分で読了)
【名作】背が高くてスレンダーな会社の指導員の先輩とそういうことになって、ナカで出してもいいよと言われた(1/5ページ目)
投稿:2021-10-20 11:59:38
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本文(1/5ページ目)
「ハハハ、やっぱり人事部さんは怖いねぇ~」
石倉部長が禿げ上がった頭を厚手のハンカチで拭う。
そうしながら、視線をボクに送ってきた。
助けを求めている。
それはわかる。
だが、部長職の人間にそんな眼で見つめられても困る。
ボクの名は、板野耕太。
人事部員ではある。
だが、ボクは一介のリクルーターだ。
然も新米。
気付かなかったことにしよう。
ボクはすっと視線を逸らした。
何も見なかったことにしよう。
スルーしようとした。
だが、部長は手強い。
つかつかとボクの傍らにやってくる。
そして、更に話しかけてきた。
「いやぁ、岩倉くんに怒られちゃったよぉ~」
『やめてくれ、この昼行灯!』
心の中でボクは叫んでいた。
何をしでかしたのかしらないが、新人を頼るのは筋が違う。
ボクは、そう思う…。
そうは思っても、相手は技術部の部長だ。
然も、何を言っても通じる相手ではない。
仕方なく顔を上げる。
精一杯の営業用のスマイルを浮かべる。
これでよし…。
そして部長のほうへと視線を戻した。
愛想笑いがきっと丸わかりだ。
けれども、そんなことで動じる相手ではない。
次の瞬間、ボクより先に口を開いた人がいた。
「お言葉ですが…」
岩倉さんだ。
音もなく、いつの間にか部長の背後に立っていた。
「うわぁ!」
驚いたときの猫のように飛び上がり、本気で驚く部長。
「い、岩倉くん、いたの?」
岩倉さんの声に驚いた部長は、振り向きざまに声を上げた。
岩倉さんは背が高い。
だから、小柄な部長が岩倉さんを見上げる形になっている。
進撃の巨人さながらの構図だ。
ちょっと盛ってしまった。
部長がボクの所にやってくるのは背が低い者同士の親近感からか。
驚く部長を尻目に、岩倉さんは最初から言い直した。
「お言葉ですが、部長…」
「…私と部長の間には人事上、5階級の開きがあります…」
「…その私が、部長に対して怒るという行為をとることなど…」
「…あり得ないことです」
意味もなく頷く部長。
禿げ上がった頭には汗が滲んでいる。
罰の悪そうな表情。
助けを求めるように、目が泳いでいる。
部長は再び視線をボクに向けた。
『だから、ボクに助けを求めるのはやめてください!』
心の声が漏れそうになった。
いくら背が低い者同士だからって、困る。
『お願いだから、新米に頼るのはやめてくれ!』
心の声は表情になって漏れていた…。
…と思う。
ボクでは助けにならない。
ようやく悟ったのだろう。
腰を引き気味にしながら、両手の掌を岩倉さんに向けている。
宥めるようにな仕草。
その両手をゆっくりと前後に動かしながら、部長は後ずさりした。
どう、どう、どう…。
まるで、トラかクマにでも出くわした時のような仕草だ。
「部長…」
岩倉さんが追撃にかかろうとする。
「いや、岩倉くん、落ち着いて…」
そんな岩倉さんの言葉をジェスチャーだけで遮る部長。
岩倉さんが歩みを止めたのを見届ける。
すると、部長は踵を返すとそそくさとその場から立ち去った。
「石倉部長ったら…」
「…人のことを、猛獣か何かみたいに…」
あまりにも美しすぎる猛獣だ。
そう思ったが、口にはしなかった。
岩倉さんはボクと同じ人事部で働いている。
年齢は七つ上。
ボクの指導員でもある。
ただ、採用担当のボクとは違って、人事や労務の仕事をしている。
その所為か、社内では怖い先輩として恐れられているようだ。
「岩倉さん、綺麗な顔してるけど、怒らせたら怖いから」
社員食堂でそんな噂話をしている社員がいた。
彼らの背後で岩倉さんと並んで食べていたボクは、ヒヤヒヤした。
岩倉さんは顔色一つ変えずにボクの横で蕎麦を啜っていた。
話は聞こえているはずだ。
その社員たちは岩倉さんの存在に気づくことなく、別の社員の噂話を始めた。
「ほら、秘書室の美人」
「うん、田之倉さんだろ?」
「おう」
「あれは、社内でもトップクラスの美人だな」
「うん」
「けど、知ってるか?」
「何を?」
「彼女、エンコだよ、エンコ」
「エンコ?」
「そう、縁故入社」
ボクは採用を担当しているが、真偽のほどはわからない。
田之倉さんもボクよりずっと先輩だ。
「社長が候補者の学生さんの面接日程を知りたいそうです」
そう言われて、採用日程と候補者のリストを渡したことがある。
そんなことがあって、田之倉さんの顔と名前だけは知っていた。
岩倉さんがスックと立ち上がった。
キター!!!
エンコ、エンコと連呼していた男性社員たち。
そこに背後から歩み寄った。
「そんな、根も葉もない噂を流布しないほうがいいですよ」
驚く男性社員たち。
ひとりは椅子から尻が浮いていた。
それを尻目に、岩倉さんは続けた。
「根拠もなく、公のスペースで他の社員を誹謗中傷するようだと…」
岩倉さんはそこで一呼吸おいて続けた。
「…”人事規定第五十三条第三項、社内の秩序を乱す行為”と看做されますよ」
そんな、大げさな…。
つい、そう思った。
だが、効果は絶大だった。
相手が岩倉さんだと認識した男性社員二人。
徐に立ち上がり、直立不動で気まずそうに目を伏せた。
それから、食べ終わった食器の乗ったトレイをそっとつかむ。
小さく頭を下げる二人。
そして、そそくさと食堂を後にした。
一撃必殺。
凄い先輩だ。
年齢はアラサー。
岩倉さんのことだ。
アラサーと言っても三十路のラインは超えているほうのアラサー。
美魔女っていうのかな。
年齢の割に見た目は若い。
だが、仕事中、特に戦闘モードに入ったときの迫力は凄まじい。
背が高くて、スラッとしている。
いつも背筋がピンと伸びている。
メガネの奥で鋭い眼光を放っている目は所謂、アーモンドアイ。
岩倉さんがボクのところに戻ってきた。
そして、何事もなかったかのように箸で残った蕎麦を口に運んだ。
業務口調に戻った岩倉さん。
「板倉くん、藤川さんに連絡入れておいてくれた?」
イタリアに駐在中の藤川さんのことを言っている。
その日の朝、岩倉さんは海外研修の説明をしていた。
相手は営業部の若手。
と言ってもボクより先輩なのだけど。
営業成績の良かった社員に対する海外派遣のご褒美だ。
うちの会社は放任主義。
だから、現地についてからは何とか一人で生き延びろ的な研修スタイルだ。
ちょっと荒っぽい。
けれども、空港での出迎えだけはすることになっていた。
せめて赴任地でいきなり躓かないようにという配慮だ。
「はい、藤川さん、快く引き受けてくださっています!」
応えると、きちんと視線を向けてひと言礼を言ってくれた。
「サンキュー!」
見ると岩倉さんが頷いてくれている。
岩倉さんのそういうところが好きだった。
先輩たちからは、怖い人だと教えられていた。
けれども、ボクにはそんな風には見えなかった。
岩倉さんに対しては、最初から好印象だった。
仕事上、言い難いこともはっきりと相手に伝えなければならないだけだ。
職業病とでもいうのかな。
それに、理詰めで話す。
だから、余計に取っ付き難いと思われてしまうのだろう。
たぶん。
うちはラボを持っているので、理系の人間も多い。
そんな中、岩倉さんは理系の人間よりずっと理系っぽい。
極めて論理的だ。
そんな岩倉さん。
実はボク…。
こっそり彼女とつきあっている。
つきあうことになった切っ掛けは、偶然だった。
美人なのでちょっとした憧れは持っていた。
でも、同じ部の先輩だし。
指導員だし。
怖いって言われてるし。
そう思ってた。
思っていたが、あるきっかけが運命を変えた。
それは、ボクが初めて任された大きな仕事だった。
うちの会社は年に一度、新卒の採用を行う。
その担当を任された。
仕事はそこそこでもリクルーターだから。
採用する人数はたかだか知れているけど。
それでも、新人のボクにとっては大役を任された気分だった。
実際の面接は、ずっと上の偉い人たちがやってくれる。
例えば、技術系の学生はくだんの石倉部長だ。
ボクの仕事というのは、採用全体の流れと段取りを取り仕切ること。
エントリーシートの整理。
学生さんへの連絡。
面接会場に集まった候補者の交通整理。
そして、社内でボランティア的にお手伝いをしてくれる人たちの割り振りと調整。
だから、そういう人たちの役割分担を決め、お願いをして回るのもボクの仕事だ。
根回しが肝心と教えられた。
季節の風物詩。
結構忙しい。
いや、メチャクチャ忙しい。
それでいて、あの学生とこの学生は鉢合わせをしないように、とか言われる。
ビミョーな調整を求められる。
それでいて、しくじるとニアミスだと言われる。
何なんだ!
まるで、空港の管制官のような気分だった。
岩倉さんは、お手伝いを申し出てくれた人たちのひとりだった。
人事部だから手伝って当然と思われがちだ。
だが、みんながみんな協力してくれるわけではない。
ましてや、岩倉さんのように何年も上の先輩が手伝ってくれることは珍しい。
ボクの指導員ということも理由だったのかもしれない。
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1: 名無しさん [通報] [コメント禁止] [削除]アーモンドアイ、石倉部長シリーズの復活どすか!?
しかも、高校時代のクラスメートに大柄な女がいた、もシリーズだったとは。2
返信
2021-10-20 12:53:14
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(2020年05月28日)
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